1996/02/03 谷村有美 日本武道館
CONCERT TOUR '95〜'96 「圧倒的に片想い」
アリーナFブロック38番
三浦敏孝, 早稲田大学
miura@muraoka.info.waseda.ac.jp

●前オフ

前々オフとして企画された、東小松川4丁目めぐりでは、ちょっと
見に何でもないような写真が実はとんでもなく難しい構図でできて
いる恐ろしい写真集であることが明らかにされた。もちろん、構図
だけじゃなく、あのがらくたの転がった何でもない風景を芸術的な
情景にまで高めてしまうロケーションハンティングのセンス(堤防
の上の幅25cmのコンクリート柵の上に谷村を乗せるなんてどういう
神経をもってすれば思いつけるんだ)には感心するばかり。

題材選びまではさすがに敵うはずがないが、せめて模写程度の意味
で、19mmレンズを手に是非とも挑んでみたい構図群ではある。どこ
かにFL19mm落ちてないかなあ。

続いて浦安市文化会館で浦安市職員採用試験の傍で執り行われたカ
ルトQでは、予選で45点満点中25点を獲得しなぜか決勝へ進出(まあ
昨年度の武道館オフでも予選を通過した実績はあるけれど)。しか
し、さすがに決勝の極悪な問題群の前にはなすすべなく、15問(で
したっけ)中4問しか正解できず。ジジイへの道(わ、わ、目指すん
じゃない、そんなもん)は長く険しいようです。

カルトQの賞品に加えてもらうつもりで持参したコンサートパンフA
とBのセットは、実は8割方の人が持っているということで、賞品と
なることができず、単に2000円くらい(元値5000円、値段に含まれ
ない水色のケースが一部割れている意外はほぼ美品だがまあ古本と
考えるとこんなもんじゃないか)で買い手を募ったところ、尾上さ
んが買い取ってくれることになった。荷物が減ってありがたいこと
である。

天木さん(ですよね)が持って来た、谷村の曲をカラオケ用キーチェ
ンジャーで「-4」したらまっきーになりましたテープには、ひたす
ら感心。誰かまっきーの番組に送りつけるべし。

記念撮影の後、浦安市文化会館を午後4時20分ごろ出発。

●開演前

サンタ帽子クラブほどには鬼の面を装備してきた人がいないのが非
常に残念。私の他に松永さんとたくさんだけではないか。皆乗りが
悪いよ。

愚痴はさておき、田安門前で「使用前」の記念撮影の後、グッズを
買う人はグッズ屋へ移動し、残った我々は合流してくる人を待って
しばしそのまま待つ。日立の斎藤さんと北陸先端大の大嶋君が合流。
大嶋君は、千葉ちゃんが来なくなったのはお前が来たせいだとかい
じめられている。

●座席

前から5列目、左側の通路から3つ目の席。

目の前に5列というのはほとんど人垣で、ステージ中央からこっち
へ伸びる階段状の張り出しの下の段まで谷村が出てくるとほとんど
谷村が人垣に埋まってしまうのが難点。

左隣はカップルで、左側の通路は昨日と同じ段取りなら谷村の帰り
の通り道に当たる。うまくこのカップルに谷村が捕まってくれれば
ありがたいのだが、周辺にカップルの密度が低いわけでもないので、
期待薄。

結局、今日はおとなしく(いつだっておとなしいが)聴いているべし。

●開演

オープニングのモチーフには「逆ふたまた」も入っているらしいこ
とに気づく。こういうのを含めた、谷村の曲のオーケストラアレン
ジとか聴いてみたくなったりして。

スピーカからの音はうるさすぎず、耳に負担がないのがありがたい。
しかし、場所柄、左右両側のスピーカからの音の波面が直接当たっ
ているような印象を受ける。低音が体に響き渡る。

どうも今日は場内が蒸し暑いようだ。暖房が効きすぎている。

1. 午前0時のオアシス
2. 最後のKISS

今日の声は昨日の続きでややハスキーだ。それが音響効果のリバー
ブの深さでやたら目立つ。ちょっとなあ。

(サンバ調にアレンジされた次の曲の前奏に被せて挨拶)

3. もうすぐあなたが帰ってくる

昨日から、「もうすぐ」を客に歌わせる部分は指導しながらやって
いるから客もちゃんとついてくるけど、遠くの一群の席でこれやっ
ても客の声って聞こえないんだよなあ。

(MC)

北側の1階にまで(そして今日は北西・北東の2階にまで)、人が入っ
ていることに触れ、「リングサイド席と名付けました。」

ビデオクルーが入っていることに触れ、「皆の笑顔を収めて行って
欲しい。」そして、加藤さんの昨日のレポートをちらっと見て気づ
かされた、「最後まで一緒に楽しみましょう。」ふーん。

4. 雪の朝
5. 何も聞かないで (弾き語り)

(MC)

今年のツアーでは念願かなってグランドピアノを弾いている。ツアー
の他の会場では会館毎の売りのピアノを借りて弾いてきたが、ここ
武道館ではマイピアノを持って来た(客席から喝采)。
「と言いたいところなんですが、実はレンタルです。(笑)」

ピアノはスタインウェイのフルコンサートD型、製造番号358970(今
日は30万番台のすごさについては触れなかった)、レンタル用、納
入されてから15年になる。

過去にこのピアノを弾いた著名人: マッコイ・タイナー、山下洋輔
(漢字は自信なし)、羽田健太郎、オスカー・ピーターソン、ス    
ティービー・ワンダー(上体を大きく揺らすしぐさの形態模写)、リ
チャード・ティー(有名そうな一節を弾いてみせるが)……嘘です、
リチャード・クレイダーマン(渚のアデリーヌ)、ジョージ・ウィン
ストン(Longing/Love)、山崎紘子(ネスカフェのCMで弾いてたやつ+
岩見さんのギター+「ダバダー、ダバダー、ダー」で受けを取り、 
「おっちゃん、受けたね!」)。

最初に大阪の毎日放送に納入された後、レンタル会社にレンタル用
として移り、再調整される。ジャズを中心に海外のアーチストの来
日コンサートなどで使われている。

新しいピアノにはない渋くて朗々とした音色が特徴で、多くのアー
チストとのエピソードを数知れず生んできたこのピアノが今日は谷
村有美とともに歌います。

6. 逆ふたまた (弾き語り)
7. 愛情と友情 (弾き語り)

場内が暑いせいで、眠くなる。静かな曲のせいで、この暑さ・眠さ
が酷い苦痛に感じる。

(MC)

「もっとおそばに」のコーナー。階段状の張り出しの最上段から2
段目辺りに腰掛けて、「もっとおそばに」の意義について少し触れ
た後、すぐに後へ並べられた椅子のところへ行こうとするが、椅子
以外の準備がほとんど何もできていない。「今日はMCがこんなに短
いとは予想していなかったようで、スタッフの皆さん慌てていま
す。」で、FeelMieシリーズのビデオのこと、写真集Obrigadaを作
る際の写真選びで自分では背中がほとんど紐になってるくらい露出
が高いつもりなのにスタッフの反応が「え、どれ?」となってしま
うこと、今度出る写真集が制作進行中で今日もカメラマンが撮って
回っていることなどを話しているうちにバンドメンバーが出そろう。

メンバー紹介。サックスの藤稜さん(「神様」の意味には触れず)が
タンバリンを中心とする各種パーカッション、コンピュータ・シン
セサイザの中村さんがアゴゴ、バンマス=バンドマスコットならぬ
バンドマスター・キーボードの青柳さんがアコーディオン、ドラム
スの田中さんは谷村「それは何ですか?」田中「スルド。(一呼吸お
いて)スルドの音が聞きたいかー!」で切れたスルドを披露。最後に
ばちを(昨日よりは慎重に)ほうり投げ、また取り落としてすごすご
と拾って席へ戻るところで受けを取る。「顔で弾くギタリスト」岩
見さんがギター、ベースの「さすらいのスリーフィンガー」井上さ
んがギター。

8. Not For Sale (アコースティックバージョン)

この曲の間奏で青柳さんと藤稜さんが谷村に内緒で示し合わせてい
ろいろ面白いことをするという話を前オフで田村さんから聞かされ
ていたのでこの二人に注目。今日は青柳さんは谷村がステージ右側
の山台の方へ行って客へ愛想を振りまいている隙にキーボードのと
ころへ行って鬼の面をかぶり、金棒が手配できなかったらしく丸棒
に紙でできた三角をたくさんつけたものを手に持って雄叫びを上げ
る。それに気づいた谷村は山台の上に座り込んで笑って成り行きを
見ている。青柳さんは雄叫びの後棒を捨ててソロの続きを始め、藤
稜さんがその背後へやってきて青柳さんの周りにシャボン玉をばら
まく。ソロがだんだん激しくなってしまいに倒れる。

そこへ谷村が降りてきて「鬼はー外ー!」とやると青柳さんは後ろ
へ逃げ、面を外してまた前へ出てきて藤稜さんのおもちゃのラッパ
のようなものとのからみ。

よくもまあここまで組み立てたものだと思う。

その後、「懐かしついでに、今日撮影しているビデオは……
FeelMie(場内に歓声)……みんな、『Come on!』やってみない?(場
内大歓声)」とあらかじめ煽って、

9. FEEL ME (アコースティックバージョン)

ちょいと狭いが、拳を突き上げ、ジャンプ。なぜこれをやったのか
という疑問が解消されないまま、ツアーのメニューの中で浮いてい
る感じのするこの曲で一汗かく。

終わってとても嬉しそうにしている谷村。なんか違う気がするんだ
けど。何とははっきりわからないけれど、昨日今日の、終始ハイテ
ンションな谷村を見ていると何か不安になってしまう。

谷村は衣装換えのため袖に消え、暗い中田中さんのボンゴで次の曲
までの間をつなぐ。

10. MOON (アコースティックバージョン)

今日は次の曲のインパクトが弱かったせいで、この曲が今日一番の
聞かせどころだったように感じる。

11. 恋に落ちた

今日のこの曲の出だしのアタックが脊髄にインパクトを与えること
が全くなかったのは、歌の出来よりはむしろ場内の蒸し暑さから来
る眠気が効いているように思う。実に勿体ないことだと思う。

12. Instrumental part I (バージョン1.7)

蒸し暑さのため座っているともはや体が曲に反応しなくなってしまっ
ているが、ピアノに挑んでゆく谷村の動きにだけは見とれる。

13. 優しいのにも程がある

座っているときの眠気が苦痛なものだから、アップテンポの曲で立
ち上がる瞬間がひどくありがたい。

14. 好きこそ物の上手なれ

好き物のコーナーでは「ラララ」のあと「ときめきをBelieve」を
合唱。なんとまあ。

15. 圧倒的に片想い

インタビューのコーナーでは、最初に柵の内側で男性1人、男女の
友人一組。最初に男性というのが昨日と同じで違和感を覚える。
FEEL MEの復活とともに、男を相手にするようになった点が武道館
の両日で遭遇した非常に大きな変化であると言える。一体いかなる
変化が谷村の中で起こったのだろう。

その後、客席へ踏み込むが、段取りが昨日と逆周りで、私のいるF
ブロック側の柵の切れ目から客席へ。私の近辺で止まることなく、
スタスタと通り過ぎられてしまって、最接近距離2mでもありがたみ
がない。

収穫は恋人同士が2組、新婚の夫婦が1組、女同士の連れが2組といっ
たところ。

16. 信じるものに救われる

(MC)

泣きが入る。

客席へ下りていくことの許可にあたって武道館側から言われたこと
は「谷村有美のコンサートに来る客だったら信じられるから。」こ
れを誇りに思っているということ。

Not For Saleを歌った頃は独りぼっちで寂しかったんだなあという
こと。

人は所詮独りぼっちだからこそ同じことを考えられることはとても
素晴らしいことだということ。

Not For Saleの「いつか寄り添えるよね 君を信じてる」の「君」
はコンサートに足を運んでくれるみんなだということ。

17. あなたに出逢えて

歌い終えてまた泣く。但し昨日ほどの号泣ではない。泣き出しそう
になるのをこらえながらメンバー紹介。手をつないで一礼し、バン
ドメンバーは袖へ。メンバーに、スタッフに、武道館に、客に拍手
を送った後ひとしきり愛想を振りまいて谷村は袖へ。

(幕間)

(MC)

告知。

ラジオ番組を始めた。はっきり言ってまだ馴染んでいないがラジオ
界のゴールデンタイムに名を連ねることができたので、思い切り好
き勝手なことをやりたい。

今日撮影したビデオはスペシャルとして夏前に出す。

E1. ずっと忘れない (弾き語り)

演奏を始めて間もなくミスってroot beer ragを結構長く弾いてか
ら歌い直す。

(挨拶)

拍手を鎮め、マイクを地面に置き、生声で「どうもありがとうござ
いました! またね!」

以上、18曲

●終演

三本締めには参加しない。参加する気になれない。今回のツアーメ
ニューの中で三本締めにつながりそうな文脈って、谷村のテンショ
ンの高さとFEEL MEぐらいしかないじゃないか。せっかくアンコー
ルで静かな曲で締めてくれているのに、何で景気よく終わらせる必
要があるんだ。

場内の蒸し暑さのもたらす眠気が、非常に恨めしかった。これさえ
なければ、中盤以降をほとんど惰性でついていくようなこともなか
ったろうに。

冬のホールの中が蒸し暑いという状況は初めてのような気がする。
その効果が「恋に落ちた」のインパクトすら無力化してしまうとい
う事実に驚く。

ずるずると外へ出、預けたカメラを受け取って入口前で記念撮影。

田安門前に移動するとそこに露店が出ていて、邪魔なんだけど恐い
から文句言うこともできず、ちょっと隅へ寄っての「使用後」の記
念撮影。

出席を確認後、オフミ会場のある飯田橋方面へ移動開始。鬼の面は
私と松永さんとたくさんだけなので、大挙して移動する集団の怪し
さはひたすら人数だけによる。過去2年の怪しい集団を見ている者
としては、怪しさが足りなくて寂しい。

●オフミ

去年より少し減って38人の「はみ出しホッホッホ」乾杯。

FEEL MEのジャンプが初体験という人の多さに驚いた。もはや自分
もジジイの境地に足を踏み入れつつあるということなのか。

最初の一口のビールがえらく効いてしまい、それ以上酒は飲めなかっ
た。

エルテックスの佐藤さんと上智大の加藤さんが、コンサート全体と
しての出来は今日よりも昨日の方が良かったという話を振ってきた
が、私にはまだ全体が見えていない。FEEL ME復活がもたらした混
乱のさなかにある。

ひととおり食い物が尽きたところで、私のタイムリミットである11
時半を回ったので、退散。

●帰宅

帰宅して今これを執筆し始めると全体がおぼろげに見えてきたが、
両日のコンサートを通じて、谷村のハイテンションだけがやたら印
象に残るものとして浮かび上がってくるような気がする。その延長
で、ピアノに対して、演出でなく話しかけているのを見て、おいお
い大丈夫かと思ってしまうのは明らかに無粋の範疇に入るのだろう。

それが、音楽をやる人が楽器に対して持つ自然な感情の表現である
なら(技術屋が機械を擬人化して感情を持つことがあるように)それ
はそういうものだと理解すべきなのだろうが、つい、コンサートに
おけるハイテンションがもたらす一種の狂気のように感じ取ってし
まうのは、音楽という一種の言語世界を操ることのできない私から
みて、手を動かさない限り勝手には動かない静物である楽器が言葉
で答を返すかのように語りかけるという異世界の所作を単に受け入
れることができないだけだからなのだろうか。

それとも、FEEL MEの復活の脈絡がつかめなくて混乱を来している
中であらゆる構成要素が不自然に見えてしまっているだけなのだろ
うか。

今の私には当分答が見えないような気がするので、今後のMLの中で
展開される議論にまつこととする。

以上

1995/02/03 28:48


●考察

 2/2, 2/3両日のライブは、終わるとぐったりしてしまうくらい内
容も盛りだくさんで、よかったことはよかったのですが、意味深な
事象がいくつかあったため、漠然とした不安といいますか、釈然と
しないものが残りました。

・谷村の異常なテンションの高さ

   テンションが高めなのはいつものことなので、他に何もなけれ
  ば別に気にしないのですが、いつもよりさらにテンションが高く、
  他のことと相まって混乱を助長してくれました。2/2のように号
  泣する谷村を見たのは初めてだったので、余計にテンションの高
  さを印象づけられてしまいました。

・謎のMC「最後の武道館」

   コンサートの冒頭あたりのMCで、「今回が最後の武道館」とい
  うような発言がありました。聞いていたその時はツアーファイナ
  ルであることの言い間違いだろうぐらいに考えて気にもしていな
  かったのですが、あとになって日大の向さんやリムネットの卯野
  木さんが「ひょっとすると武道館は見納めなのではないか」と指
  摘されました。

・「FEEL ME」の復活

   実は私のコンサート歴は「秋の味覚」ツアーの武道館からなの
  で、封印される前の「FEEL ME」は3回しか体験していません。従っ
  て、この曲は「復活」というよりは、上智大の加藤さんの指摘さ
  れるように、ただの「武道館ならではのスペシャルメニュー」と
  解釈すべきところなのかもしれませんが、MLでジジイたちの昔話
  をたくさん目にしているうちに特殊な位置づけができ上がってし
  まっていたらしく、「衝撃の復活」となってしまいました。
   2年前、この曲がメニューから消えて以来、それまでとは異なっ
  た層のファンを開拓しようとしていたらしく、「お約束」のある
  曲は(「最後のKISS」のような例外を除き)影を潜め、コンサート
  は聞かせる曲主体に変貌を遂げました。それでもジジイたちは長
  らくこの曲の復活を望んでいたものですが、今回のツアーではそ
  んな声は全く聞かれませんでした。今回のツアーのメニューに
  「FEEL ME」は全く必要性が感じられなかったのです。
   もちろん、雑誌のインタビューほかそこここで谷村が言ってい
  たように、今回のツアーは随所で客の期待を(いい意味で)裏切る
  構成になっています。ファイナルのスペシャルメニューとして
  「FEEL ME」を織り込むこともその一環であると解釈することも
  できます。しかし、他の裏切りはコンサート全体としてはしっく
  りするのに対し、どう見ても「FEEL ME」は浮いています。
   客の反応を見ても、この「FEEL ME」のお約束を知っている人
  は約半分。この2年ほどこういうお約束に反応しないタイプのファ
  ンを開拓していたためとはいえ、2年のブランクはあまりにも長
  すぎました。ジジイたちでさえ、しっかり拳を突き上げジャンプ
  なんかしちゃったりしながらも「いまさら遅いよ」という反応を
  しています。もはや今の谷村に「FEEL ME」は似合わない。
   同時に、谷村がこの手の「お約束」を煽るというのもここ2年
  ほどなかったので、かような状況をおしてまで客を煽ろうとする
  姿がものすごい変貌のように私の目には映ったのです。そして、
  ものすごい違和感が後に残りました。

・「ときめきをBelieve」の合唱

   2/3のみ、「好きこそ物の上手なれ」のコーナーで「ラララ」
  の後これが出てきました。拍子が合わないので、かなり不自然な
  んですが、脈絡なく出てきたこれで一昨年のツアーで最後に合唱
  したことが思い出されてしまいました。
   これと前項の「FEEL ME」でもってちょっと前の谷村のライブ
  の総集編のようなイメージが湧いてしまいました。

・男を相手にするようになったインタビュー

   今回のツアーのテーマは「もっとおそばに」ということで、谷
  村が客席へ降りてきてのインタビューがありました。しかし、武
  道館よりも前のすべての会場で、インタビューの対象になるのは
  女性ばかりでした。もちろん、連れの男性がいれば一言くらいそ
  ちらへマイクを向けはするのですが、基本的に谷村は女性の方を
  向いています。これは「お約束」の消滅とともに女性のファンを
  大事にする姿勢の現れであろうと解釈され、そりゃ私たちが谷村
  と話す機会が得られないのは残念だけど、それはそれで納得でき
  るものでした。
   それが、武道館の両日に限っては(そしてたぶん大阪ファイナ
  ルもそうなるのでしょうが)、最初のひとりが男性だったのです。
  これまた谷村に何か心境の変化でもあったのかと思わせる要素で
  した。
   ただ、後から考えるに、この点は別に心境の変化などではない
  のかもしれません。両日ともこの男へのインタビューは「彼女連
  れておいでよ」で締めくくっているんです。ということは、アイ
  ドルの追っかけのごとき旧来のファンに対して変化を促す意味で
  (直接突きつけている点でより強烈ですが)、「お約束」の消滅と
  ともに女性の方を向いたファン層開拓の意味で首尾一貫するのか
  もしれません。
   しかし、これもまた後述する妄想の中では、「結婚を素直に祝
  福してくれないタイプのファンをあらかじめ突き放しておく」と
  いう解釈をもって首尾一貫してしまうのです。

・抱き合ってねぎらい合う谷村とバンドメンバー

   第1幕の最後で、バンドメンバーが袖へ捌ける直前、谷村がバ
  ンドメンバーの一人一人と抱き合ってねぎらい合ってました。こ
  れも武道館へ来る前には見たことのない光景でした(おまけに、
  この武道館の後の大坂城ホールではバンドメンバーが花束を持ち
  出したとかいう……)。ひょっとして今のメンバーと谷村が共演
  するのはこれが最後なのではないかという不安がここから発生し
  ました。

 ざっとこれだけの意味深な事象がコンサート後に私の中に漠然と
した不安を呼び起こしてくれました。オフミをやって帰宅して上記
のコンサートレポートなんぞを執筆しているような頃には漠然とし
た不安のままでその意味するところがはっきりしなかったのですが、
翌日辺りに出た卯野木さんの「武道館は今回で見納めなのではない
か」という指摘が絡んできて、妄想が極限まで進んでしまいました。
 もちろん、卯野木さんの指摘を単純に真に受けただけでは、次の
ツアーでは代々木体育館か横浜アリーナになるということ(まさか
東京ドームはまだないでしょう)で、ああいうホールなら縦でなく
横に使って欲しいものですとか涼しい顔で言えるのですが、ひょっ
として結婚して音楽活動をやめる、あるいは長期休業するのではな
いかという形でかなり具体化した妄想ができてしまいました。それ
ならば、突然発表されて心にぽっかり穴が空いてしまうのを予防す
るために、谷村離れするための心の準備を今から始めなければなら
ないのかな……そんな極限に達する妄想でした。
 結婚自体は素直に祝福できるのですが(はやくしろよ :-)、休業
されると、少なくともライブをやらなくなられると、他に谷村ほど
強烈に惹かれるところのある女性ボーカリストを知らない私はさす
がに心に穴が空いてしまいます。

 その後、ソニーの成瀬さんによる、武道館2日間でステージの後
ろにまで客が入り、大阪城ホールも埋めることができる動員力から
見て、武道館は今年限りで次はもっと大きな会場へ移るのではない
かとの冷静な分析を読んで、この妄想からだいぶ距離をとることが
できるようになりました。

 しかし、大阪城ホールのレポートなどを読んでも、どうやらこの
妄想をはっきり打ち消してくれる明快な答は得られないようです。

 来年も谷村のコンサートツアーがありますように。とりあえず、
今はそう祈っています。

1995/02/10 17:49

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