緊急特集! 東海大学病院ドクターヘリ3月休止の危機!

東海大学救命救急センターにスタンバイする中日本航空のEC135
(現在は機種が入れ替わり3月までは朝日航洋のMD902が常駐)


 Rotor Windではドクターヘリの普及、啓蒙活動に力を入れており、先日も東海大学病院をレポートしたばかりだが、そのドクターヘリが3月休止という危機に陥っている。
1月31付朝日新聞によれば概要は下記の通りである。


 ドクターヘリ“失速”、先駆の東海大病院が3月休止へ
 事業主体の神奈川県「財政難で予算とれず」 

 東海大学医学部付属病院(神奈川県伊勢原市)のドクターヘリが、3月いっぱいで運航休止に追い込まれそうだ。

理由:事業主体となる神奈川県が、財政難などを理由に予算案に盛り込むこと を「極めて困難」としている。

背景:年間事業費は1カ所につき1億8000万円。国は約3分の2にあたる1億2000万円を負担。
   都道府県が残り6000万円を予算化すれば、実施できる予定だった。だが来年度予算案の編成過程で
   ドクターヘリ事業は見送られた。

状況:1月中旬には、厚生労働省幹部が神奈川県の知事に面談し「国の意気込みをくんでほしい」と翻意を要   望したが、知事は厳しい財政状況や小児救急の体制整備の必要性をあげ、断ったという。

同県医療整備課のコメント:「ドクターヘリを不要とは思っていない。だが医療の枠で優先順位をつけると、              来年度は仕方なかった」

同病院関係者のコメント:「病院が6000万円を負担してでも続けたいと申し出たが、不可能と言われた」

  以上、省庁の縦割りに阻まれて導入が遅れた日本で、内閣の調整でやっとスタートにこぎつけた矢先のことで、関係者は危機感を募らせている。

 以上、1月31日付朝日新聞 朝刊記事より抜粋      詳細記事は朝日新聞のWeb参照



 ちょうど1月26日にスーパーフライデーという番組で「巨大病院救命最前線」のタイトルでドクターヘリの特集番組が放映され、その記事を書こうとしていた矢先、この新聞記事が飛び込んできた。

  最初は信じられない気持ちで一杯であった。 あと一歩で長年の夢が実現しようという時にこの事態・・
ドクターヘリ関係者は色々な調整に粉骨砕身し、使用事業会社も絶対事故を起こしてははならぬと細心の注意を払って安全飛行につとめた。 臨時着陸場も確保、某企業のグランドも定常的に使用され、地元消防との連携もうまくゆき、救急隊員の判断でヘリ要請が可能となった。いわば軌道に乗っていたときであった。
航空法も改正され、高速道路のパーキングエリアにも着陸できるようになり、同番組でも実際に同医大常駐中のMD902が負傷者の手当のために着陸したシーンがTV画面に映し出された。

 このように最近はドクターヘリのおかげで多くの人命が救われている事実がTVでも度々取りあげられ、国民の関心事となってきた。これなら自分が倒れたときでも助かる、逆に身内を亡くし、あの時この制度があれば・・と無念の思いをかみしめた人、その受け取り方は様々だろう。
それが今になり休止とは、一体何故?という気持ちで一杯である。

 一番の理由は財政難という。
消防関係者の話では、昨年の12月頃から中止になるとの情報が入り、関係する消防機関、医療機関、市長、町長、県会議員、政党、県職員幹部をはじめ、諸団体、諸個人が継続実施を求めてかなり努力したという。
しかし予算不足には勝てず中止に追い込まれたようである。
神奈川県の財政状況は県のホームページを見ればその窮状は一目瞭然だが、市長をはじめ皆が継続を求めて陳情したということは、その有用性が広く認められている訳であり、にもかかわらず予算が見送られたことは、残念でならない。知事も苦渋の決断だったことだろう。

  しかしここで疑問が残る。
同病院関係者のコメント:「病院が6000万円を負担してでも続けたいと申し出たが、不可能と言われた」(朝日新聞より)という点である。
理由として財政難を上げながら、一方で「6000万円負担してでもやりたい」という病院の意向を断るというのはどうしても納得がいかない。 他に何の要因があるのか、それさえ取り除けばドクターヘリは継続出来るのか? この記事にはこれからのさまざな問題が含まれているように思えてならない・・

 ただ、はき違えてはならないことがある。
もともと、この補助の考え方として、厚生省は掛かった経費の1/3を病院側が負担することを基本としていたが、それでは病院の負担が重すぎるので、今年度に限り国と自治体が負担し、このシステムの推進をはかろうとするものであった。
よって県(自治体)が費用を負担しなければ運航が出来ないわけではない。
病院側に経済力があるならば、基本通りであり、全く問題ない訳である。
県が病院に対して、行ってはならないという法的拘束力を持つのか、疑問が残る。
(詳細は2000/10/14掲載のNEWS「ドクターヘリ、厚生省が予算要求」参照)

  そこで提案だが、今回は病院側の立て替えとし、来年度に予算化、その後に補填してはどうだろうか?
その1年間で予算を見直し6000万円を捻出すれば良い。優先度だけ上げておけば予算の確保は出来る筈。

 今、都内のある区では歳出削減として、高齢者への弁当の宅配を区から一般業者へ完全移行、区から切り離そうという動きがある。各地方自治体でもその方向にシフトしてゆくと考えられている。
事実神奈川県も行政改革の中で、積極的な事業の民間委託をスローガンに掲げている。
今度の場合も、県は承認のみであとは病院側に一時的に移行すれば良い。
アウトソーシングは企業では費用削減策として常識であり、このような発想の転換が必要である。
それがなぜ出来ないというのだろうか?
ドクターヘリの普及推進をずっと声高に叫んできた者として、どうしても納得がゆかない。
この点(何故「6000万円負担してでもやりたい」という病院の意向に不可能と答えたか?)だけは明確にして欲しいと思う。

 

 よく何々だから出来ないという言葉を耳にする。
だが逆に考えれば、その要因を取り除いてやれば出来るわけである。
そして何故出来ない、それをやるためにはどうすれば良いか?なぜ?どうすれば?を繰り返して考えて行けばおのずから答えは出る。そのようにして、ドクターヘリ調査検討委員会は阻害原因となっていた航空法の見直しを行い、一部を改正、高速道路への着陸など、今までは不可能と思われていた数々の問題を克服してきた。
だが資金面だけは課題として残った。同委員会で活躍された西川氏もその点が残念と航空の現代で書かれている。(詳細はこちら:航空の現代「ドクターヘリコプター報告書」)
 
最後の詰めの甘さ、これが今回のまさにウィークポイントになった。
これにより、また逆戻りというのは何としても避けねばならない。

 財政難に苦しんでいるところは他にもある。
県から救命救急センターの認可を間もなく受ける予定の静岡の例では救急医学研究会の資金援助でスタートし、あとから県からの補助金800万円が付いた。しかしそれだけでは十分な資金とは言えず今年度の運航は運航会社のかなりの持ち出しの元で行われており、東海大学の場合とかなり異なっている。

  今、使用事業会社の殆どがドクターヘリ事業への参画を表明している。
だがこの現状を見る限り、よほどの体力(経済力)がないと事業は難しい。
幸いにして、現在稼働中の岡山県の川崎医大からは、このような休止の話は聞こえてこない。
では、これから導入する他県はどうなのだろうか?

 あるドクターヘリ関係者はこう語る。
「東海大学は試行的事業の中ではかなりの効果を上げていただけに、関係者として非常に残念。
とにかく県の予算が付かないことにはどこの救命救急センターが(補助を前提として)名乗りを上げても運航できないので、各県の県議会で県の予算が決まらない限り、来年度どこの病院がドクターヘリ事業を行うのかまったく分からない状況。どこの県も地方財政が苦しい状況なので、簡単にいくとは思えず、ひょっとしたら中止と言うことも十分考えられるのではないか?」と危機感をつのらせる。

 つまり、神奈川県がお手本をしめさなければ財政難を理由に撤退する県も出てくるかも知れない、ということである。これは大きな問題である。

  県の予算編成は我々には見えない。予算担当者の苦労は大変なものであろう。
筆者は東京都民であり、県に税金を納めている訳ではないので、県に何か言える立場ではない。
だが考えてもらいたい。上述のように、今回のことは神奈川県だけの問題ではないのだ。
全国のドクターヘリ事業をあやうくするかも知れない。
予算を削れなければ先延ばしにする方法は確かにある。半年後1年後には予算化できるかも知れない。
だがこの問題は命が掛かっている。それでは遅い。

 ドクターヘリを植物にたとえるならこうである。
一生懸命土壌を耕し、20年以上かけてやっと芽が出た。危険因子は取り除かれ、あとは肥料と水をやり続ければ、確実に実を結ぶ。だがここで水やりをやめてしまえば、土は干からび枯れてしまう。
半年後、1年後にに水やりをしてももう芽は出ない。ここでインターバルをおいてはならない。


  ドクターヘリは海外からも注目されている。
ドクターヘリは今、日本に於ける歴史の1ページ目とも言える。
このままでは「経済大国日本とは言ってもドクターヘリも飛ばせないのか」とEMS(救急医療)先進国から笑い者にされてしまう。
どうか神奈川県は「ドクターヘリを中止した県」ではなく、財政難などさまざまな問題に見舞われながらも見事克服し、「ドクターヘリシステムの発展に貢献した、勇気ある県」として歴史に名前をとどめてもらいたいと思う。

 予算は幸いにしてまだ確定していない。 復活折衝の機会は残っている筈。
また企業に於いても枠外申請という制度があり、予算確定後も正当な理由があれば処理される。
まだ光は消えていない。

 この素晴らしい救命システム、ドクターヘリの予算が復活することを切に願う次第である。
どうかこの光を消さないで欲しい。県の英断に期待したい。

 コメント:
 
本記事は県を批判するものではありません。知事も苦悩の末の決断だったことでしょう。
しかし、日本が長年出来ずやっと実現出来るようになった素晴らしいシステムが財政難の為に中止に追い込まれていることは事実です。 これは残念でなりません。
そう思っていたところ、数人の方から朝日新聞の記事掲載翌日にメールが届きました。
「 今回のことを是非記事にしてほしい。そして何とかしたい。」
このような意見が多くあることを知って貰いたいと記事にした次第です。
その方たちのメールを一部以下に掲載します。



 自分もドクターヘリは仕事で何度か患者の搬送を依頼したことがありますが、レスポンスの良さ、搬送時間短縮など大きなメリットがあり、近い将来において救急医療システムにおいて大きな位置を占めるものとして期待していました。
それが中止となるとのことで非常に残念に思います。
自分が加入している消防、医療関係のメーリングリストでも全国からかなり落胆の声がありました。
是非ともこの件に関して記事として掲載していただきたいと思いメールしました。 よろしくお願いします。


救急隊員 毛内様より



 先日、テレビで皆様のご活躍を拝見しました。
皆様のおかげで、命を助けられた方がたくさんいらしたこと本当にすばらしいと感激いたしました。
お医者様と看護婦さんの、大変なご苦労があってのこと、本当に、大変なお仕事だと思いました。
それが、本日の朝日新聞を見て愕然としました。
国は予算が取れるのに、神奈川県ができないとはどういうことでしょう?
まったく何を考えているのか、ひとの命をどう考えているのでしょうか?
せっかく、これからというときにほんとに情けなくなりました。
どうすれば、存続させることができるのでしょうか? みんなの力で何とかしていきませんか?
私は、ただの一県民ですが、何かご協力できればと思い メールをしました。

  私の両親は、もう他界いたしました。
人の死を、身近に感じて、いろいろ考えさせられることがたくさんありました。
将来ある人が、もしちょっとの時間、ほんの一分一秒差で助けられるなら、助けてあげたい。
そのことによって、何人ものその人の周りの方たちが救われる。
一人だけの生死の問題ではないのではないのでしょうか?
せっかくこのような人命救助が大きく全国的に広がっていこうというときに もっと県・国含めて何とかがんばってもらいたいと思っています。
神奈川県にも一言言うつもりです。
ポジティブにどうしたら聞いていただけるか 考えていきたいと思っております。
できる限り、続けてください。 がんばってくださいね。                              

松川 様より


 以上です。

 現場で働く方のドクターヘリに寄せる期待、そして落胆は説得力があります。
また愛する者を亡くされた方の、命の大切さの訴えは心に響くものがあります。
どうか神奈川県の方もこのメールに目をとめて頂きたいと思います。

 資金の関係で一時は停滞していた、静岡県でも補助が出て復活した例があります。
神奈川県の場合も復活折衝が現実となることを祈りたいと思います。

  尚、本記事はドクターヘリ、消防、防災、マスコミ関係者など様々な方にご協力頂きました。
この場を借りて御礼申し上げます。

2001/2/4



追加記事

 本記事掲載後、色々な意見が寄せられた。

朝日新聞の投書欄に脳梗塞から生還した70歳の方からの継続を望む意見が載せられたという情報。
ドクターヘリ推進に努力した方、医師、看護婦の落胆に同情する声。

消防防災ヘリに対する意見も多かった。
・ドクターヘリよりも消防防災ヘリの活用を進めるべき
・消防防災ヘリに医師を乗せる方が先である。
・消防防災ヘリでも足らず、自治体が助けを求めてきてから民間が始めても遅くない。

また、予算以外の理由もあるのだろうから県の苦しい状況を理解すべき。
と県の決定をやむなしとする意見などさまざま。
遂には「ドクターヘリ不要論」までも飛び出した。

 これは県の決定をうんぬんするものではない、あくまでも問題提起として書いたものである。
その後色々な関係者にお訊きしたところ、(当然予想はされたが)ドクターヘリ推進者の相当の地位の方までも協議、陳情していることが分かった。 ・・にもかかわらず、見送られた経緯から見て、この決定を覆すのはかなり困難だろう。 もう部外者(県外の者)があれこれ言うレベルのものではなくなっている。

  存続を望む声も多く、これからの世論の盛り上がりに期待したいところであるが 予算が流れたとしても半年後の修正予算で再考して欲しいと思う。
そしてその間、上述の声にもあるように、是非消防、防災ヘリの活用を望みたい。
各県では自治体による救急ヘリの動きも始まり、出動基準も統一、すでに神奈川県でも川崎消防のヘリが出動、効果を上げている。これにより、ドクターヘリの間隙(かんげき)を埋めることが出来るだろう。

  新しいものが導入できないのならば、今あるもので最大限の効果を上げることを考えねばならない。
今はドクターヘリの論議より、人の命を救うことが第一なのだから・・(終)

以上 2001/2/10加筆


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