結語:コンサート録音のポイントと今後の課題

24Bit/96kHzサウンドの特徴

初めて24Bit/96kHzサウンドを聴いたのは、もう5、6年も前になるだろうか。ビクター青山
スタジオでDVDオーディオのデモ試聴をした時のこと。『3大テノール』による5.1chサラウンド
のデモやカラオケ流用の説明の後、DVDオーディオ諸フォーマットの比較試聴があった。リニア
PCMの24Bit/96kHzと16Bit/44.1kHzで同一音源を聞き比べると、少し違う。モニタスピーカー
の性能もあるので、圧倒的に24Bit/96kHzがよい、というわけではないが、24Bit/96kHzでは
宮本文昭のオーボエの音がいちだんと生気を帯び、まるでそこで演奏しているかのように瑞々しく
聞こえた。今もその印象がはっきりと記憶に残っている。

(オーボエという楽器は中域に倍音が集中する独特の音色を持っており、これらの微妙な倍音の
再現性が音色の差となって表れる。)

24Bit/96kHzの音は16Bit/44.1kHzと比較して、刺激的というより、むしろアナログに逆戻り
したようなまろやかしっとりサウンド。しかし透明感や質感は確実に高い。ダイナミックレンジ
も広い。(16Bitの96dBに対し24Bitでは144dB。130dB前後といわれるオーケストラのダイナ
ミックレンジをフルにカバーできる計算だ。)よく「空気感」という言い方をするが、コンサート
ホールのアコースティックな響き、残響音までリアルに再現する。解像度や定位もよい。

今回のプロジェクトは、

「24Bit/96kHz録音を民生機器でどこまで実現できるんだろう?」
「16Bit/44.1kHzにコンバートしてCD化した場合にもメリットは感じられるのだろうか?」

という疑問から始まったのだが、従来より高音質のCDを作ることが出来、まずまず満足である。

「最終的にCD規格にコンバートするなら、最初から16Bit/44.1kHzで録音した方がよい」

という意見もあるが、

「最終的にCD規格に変換しても、それでも24Bit/96kHzマスターの方が音がよい」

というのが今回の結論だ。
サンプリングレートの低いMIDI音源では違いがわかりにくいが、生楽器の録音を体験すると
もう16Bit/44.1kHzには戻れない。

とはいえ、この規格をフルに享受するには、やはりDVD-audioが必要だとも思う。せっかくの
高音質を低位規格にコンバートするのはもったいない。またデータサイズもCD規格の約1.5倍と
大きいのでメディア容量も必要。8chで1時間あたり10GBのオリジナルデータの保存は容易で
はない。また24Bit/96kHzの性能をフルに活かすには、レコーダー、ミキサー、オーディオ
カードといった録音回路はもちろん、アンプ、スピーカーなど再生機器もその性能に対応した
ものが必要だ。

p.s.
日本レコード協会会長・富塚勇氏の講演を聞いた際、フロアから次世代メディアについて質問が
出た。SACD、DVDなどいくつかの規格が出ているが、映画で普及したDVDをオーディオ用に使
うよう業者に働きかけているそうだ。
他方、業界では「CDの音を95点としたらDVDの音は98点。わずか3点の違いのために消費者は
新プレイヤーに投資するだろうか?」とも言われているらしい。CDの音質もフォーマットが登
場した頃に比べてかなり向上しており、DVDとの差はごくわずか。これ以上の音質向上を求める
なら、音の入口、マイクなどを変えていかなければならない、とのこと。(2002.12.7)

マイキング、マスタリングの課題

録音をめぐる様々な思惑

・演奏者の見地〜自分の音ができる限り大きくフィーチャーされていて欲しい。(爆)
・コンサート聴衆の見地〜コンサートホールで聴くのと同じように聞こえて欲しい。
・CDリスナーの見地〜(実際の演奏がどうであれ、)良い演奏、良い音で聴きたい。(笑)
・エンジニアの見地〜努力と工夫、狙いが反映された音でありたい。(苦笑)

様々なベクトルを意識しつつ、鍛えられ、成長しなければ。

<参考文献>

「プライベートコンサート録音講座」『STEREO』2001.9

「特集1: 録音の楽しみ再発見」『STEREO』2003.2

「できる!!バンド・レコーディング」『サウンド&レコーディングマガジン』2001.8

「エンジニア直伝!自宅マスタリングのヒント」『サウンド&レコーディングマガジン』2000.12

「クオリティの高いCDを作ろう!自宅マスタリング事始め」『サウンド&レコーディングマガジン』2003.3

斉藤宏嗣『CD優秀録音盤ベスト800』音楽之友社ONブックス

「ホントに2496は最強か?」『プリプロダクション』2000.8

山本ひでお『音楽CD-Rの正しい焼き方』エーアイ出版

*Audiophile2496が『DTMマガジン』エディターズ・チョイスに選ばれました。『DTMmagazine』2001.12
「未来を感じさせる製品」「多少の不具合があっても使ってみたいと思う魅力的な製品」という
選考基準はまさにAudiophileにふさわしい。(笑)ネットでも多くのAPユーザーを見かけました。
2001年に最も売れたオーディオカードの一つだったのでしょう。


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