(付論)サブシステム考〜DAT vs. USB インターフェイス

サブシステムの必要性

本番は常に最高の機材で録音したい。が、トラブルに備えてバックアップは必須。これまでに何度
失敗したことか。レベルオーバー、録音ボタン押しタイミングの微妙な遅れ、原因不明の入力ゼロetc.
録音ミスはこれからもやってくるだろう。バックアップ用にサブシステムが必要だ。

あるいは、もっとライトなシステムで臨みたいときもある。小さなスタジオでのプライベートコン
サートやカフェライブを録音する場合、コンサートホールのような重装備で出かけたくない。合宿の
大荷物と一緒に録音機材を運ぶのが嫌なとき。駐車場がなくて電車で機材を運ばなければならないとき。

そんなときのためのサブシステムとして、DATとUSB+ノートの音質や使い勝手を比較してみた。

比較条件

USBインターフェイスはONKYO SE-U55、DATはDENON DTR-100P。
SE-U55は現在のUSBサウンドインターフェイスの定番、DTR-100Pは十年前の人気商品
である。
この十年の間に、音質は向上したのか?USBはサブシスムとして実用に耐えるのか?
両方のシステムで室内楽コンサートを録音してCD化し、音質比較を行った。

信号の流れ

マイクミキサーUSBインターフェイス(SE-U55)ノートPC

        →DAT(DTR-100P)→PCIオーディオカードPC

USBはSE-U55をiBookにアナログ接続して44.1kHzで録音。
DATはDTR-100Pで48kHzで録音し、Audiophileでデジタル取り込みの後ソフトで44.1kHzに変換。
(DTR-100Pのアナログ入力は48kのみ。発売当時、DATは48kが主流だった。)

音質・可搬性比較

DATは高域の周波数レンジが伸びていて爽快感がある。しかし中低域は薄く、特に低域が弱い。クラシック音楽では、高弦は拾うが低弦が弱く、チェロの低域からコントラバスにかけての音域は大幅にカットされた印象がある。総じてあっさりカッチリ系の音。サンプリングレート変換する分、音質的には不利で、高弦など一部でジッターノイズが気になる。また生音と比べて倍音構成が変化してしまい、音質上わずかに違和感がある。
ポータブルDATは可搬性の点でメリットが大きい。ビデオカセットよりひとまわり大きい程度の本体とワンポイントマイクでデジタル録音ができ、2時間程度のバッテリー録音も可能。

対するUSBは、高域が一定周波数で途切れたような印象があるが、中低域のバランスがよく、全体に聴きやすい音で、適度にメリハリもある。ノイズは全く気にならない。
可搬性はやや劣る。ノートPC、USBインターフェイスの他に、マイク入力をLINEレベ
ルに上げるためのミキサーも必要なので、持ち物が増える。さらに、それらを接続し、
認識させ、レベル調整するのに10分程度の準備時間がかかる。 USBインターフェイス
はバス電源で駆動し、iBook(300)内蔵バッテリーで2時間以上の連続録音が可能。
(iBook単独では約5時間作動するので、SE-U55の電源消費量はそれなりにある。)

USBの安定性

問題はUSB独特の不安定さだ。iBook300,MacOS9.04では、C社のプリンタ、スキャナ
用常駐ソフトの影響か、使用の度にAppleMultimediaUpdateをインストールして再起
動しないとSE-U55を認識しない。それでもダメな時はUSBケーブルを抜き差しすると
認識する。AppleMultimediaUpdateをインストールする以前は、認識しても周期的に
音飛びが出たが、AppleMultimediaUpdateをインストールすると音飛びはなくなった。
(注 SE-U55の動作条件はMacOS9.04+AppleMultimediaUpdateである。)それでもご
くまれに音飛びが起こったが、編集段階でファイルコピーすると解消する。ハードディ
スク断片化により、データ読み出しに問題が起こるのかもしれない。いずれにせよ、
初期のUSB製品のように不安定(頻繁なフリーズ)を気にすることはないし、同価格
帯のPCIカードと比較しても、音質は優れているのではないだろうか。コンピュータ
内部ノイズの影響を受けないので、ノイズの点では明らかに有利である。

適材適所・・・

というわけで、軽量小型でイージーにデジタル録音するならポータブルDAT、ミキサー
も使ってマルチ録音するならUSBが良さそうである。河原、海、山など野外録音なら
やはりDAT、電源完備のコンサートならUSBという使い分けだ。室内楽コンサート
をDAT、USBの両方で録音した結果、音大生の演奏者から、USB録音から作ったCDの録
音が大変良いという評価を頂いた。

以上のことから、今日のUSBオーディオインターフェイス+ノートPCは、かつてのDAT
に代わる十分な音質を備えていると言えるだろう。しかるべく設定すれば、安定した
録音が可能だ。
MOTU828などFireWireオーディオインターフェイスがあればなお良いが、コストパフォー
マンスのよいUSBも捨てがたい。サブシステムならUSBでも十分だろう。


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