事例研究(2):室内楽の録音〜弦楽器のマイキング

仲間うちの室内楽演奏会録音から、弦楽器のマイキングの注意点やノイズ対策をまとめてみた。

室内楽演奏会

弦楽四重奏、ピアノトリオから、ヴァイオリン協奏曲、約30人の弦楽合奏までさまざまな編成。
会場は可動式ステージ+パイプ椅子の区民センターホール。

機材

雨で荷物か多かったため、ワンポイントステレオマイク(AT822)とDATの最小セット。
マイクスタンドはホールのものを使用。ステージから1mの位置に立て、リハーサルを録音してみた。
曲毎に録音レベルを決め、プログラムにメモしておく。

チェックしてみると、どうも思わしくない。

・弦楽器の摩擦音が気になる
・ピアノ入りの曲のピアノがほとんど聞こえない
・足音を大きく拾う(客席では、進行係やデジカメマンがマイク付近を歩き回っていた)

要するに、ノイズが多くてバランスの悪い音。
以下、項目別に対処法を。

弦楽器の特性とマイキング

弦楽器は擦弦楽器、つまり弓で弦をこすって振動させる。この振動を鳴板に共鳴させて楽音を得る。
さて今回のリハ録音では、摩擦音(ギィギィこする音、アタック時に弓がひっかかる音など)が
目立ってしまい、あまり音楽的でない。とくにチェロ、コントラバスのガリガリ音が気になる。
(もちろん、マイクの音響特性によるのであるが)

ためしに客席最後列で聴いてみた。ここでは摩擦音はなく、楽音のみが聞こえている。間接音も
加わり「みずみずしい弦の響き」がする。高次倍音のヌケのよい音が飛んでくる。

そこで、マイク位置をさらに1m後方に移動した。(ステージ端から約2m)
摩擦音が消え、間接音も入って自然な響きになった。大編成時のバランスも改善された。

#実は取り込み時に聴いてみると、まだノイズ成分が気になったのでEQで補正した。
(DigitalPerformerの「AccousticGuitar」プリセットを少々編集)

(後記)『ステレオ』誌2003年2月号「自分たちの演奏をCDにしよう!!」にも弦楽器の雑音と
マイク距離の関係を扱っている。マイク距離と録音傾向も、当ページとほぼ同じになっている
のは興味深い。ピアノのペダル音やキーのカタカタ音、管楽器のキー・バルブのカチャカチャ音、
ボーカリストの吹かれや衣擦れ音etc. 演奏に関わる雑音特集も面白いかも。オーケストラプレイヤー
は本番中、休符を数えながら最小音量で次の出だしの音を取っていたりするのだ。
そういえば、ソフトウェア音源The Grand(スタインバーグ社のVSTインストルメント)の発表会で、
担当者が「このソフトではスタインウェイのピアノのダンパーペダルやハンマーアクションまで
詳細にシミュレートしています!」といってパラメータを操作してカタカタ音を出すと、会場から
いっせいに失笑が漏れた。リアルな音って難しい。(^^;)

床振動ノイズ対策

ホールにあったマイクスタンドは、校長先生が朝礼で使うヤツですね(笑)。金属の台から、
床の足音がゴトンゴトン伝わってくる。本番中もカメラマンは動き回るだろう。

まず、スタンドを床から浮かせることを考えた。ストレッチ用ビニールマットがあったので
この上に置いてみたが、マットが柔らかくてスタンドが倒れてしまう。そこで、フェルト張り
指揮台の上にマイクスタンドを立て、指揮台全体をマットで浮かせることにした。

#もちろん、ちゃんとしたブームスタンドは振動対策がなされている。
今回は、ありもので代用というわけだ。


(写真)マイクスタンドを指揮台の上に置き、下にビニールマットを敷いて指揮台を浮かせる。

その結果、演奏中のノイズがぐっと減り、クリアな録音ができた。


(写真)マイク位置も、さらに1m後方(ステージから約2m)に変更した。


(写真)大編成にも対応


今回の御教訓(^^)/

弦楽器の摩擦音に注意。

ありものは最大限に活用しよう。


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